あるワケないじゃん、そんな恋。
ノってやるか
「あのさ…さっきのことなんだけど……」


バツの悪そうな顔してるね。
目の前で泣いたのがそんなに効いた?


心配しなくてもいいよ。
あれは悔し涙だから。


夢も何もないファーストキスをされて、ガラガラ…とハートが砕け散っただけ。


ここからが始まり。
これからが本番。


ただ一つだけ違うのは、私の思い描く恋愛じゃないってことだ。



「悪かったよ。あんなふうに奪って……」


そうだよ。
悪いよ。

だから、私、完全に捻くれたじゃん。


でも、いいよ。
今から羽田を練習相手に、恋愛の疑似体験を積み重ねるから。

沢山の教授から知恵を借りて、トコトンあんたをハッピーにしてあげる。

女子力は低いけど、そういう事に頭を使うのは好きよ。

精々ノってよね。

反るなんてナシだからね。




「……もういいよ」


立ち上がって涙堪える。

泣きそうで泣かないフリして見せるのもテクの一つ。

いろんな表情して見せて、羽田の好む顔を知ろう。


「ちょっと驚いたけど大丈夫。…今時キスも知らない女子なんて情けないし、この際経験できて良かったと思うことにする。ご教授ありがと。感謝するわ」


持ってきたバッグから空かさずエプロンを取り出す。
さっさと身に付けて仕事開始。
棚に本を並べだす私を羽田はまだ見つめてる。


「……持ち場に帰れば?あんたんとこ、お客さんもう来てるよ」


指差して教える。

振り向いた羽田は確認して、もう一度こっちを振り返る。


一瞬私に声をかけようとした。
……けど、やっぱり止めた。


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