あるワケないじゃん、そんな恋。
「バカッ!!羽田なんか知らないっ!!!」


叫び声を上げて、菅野は走って逃げた。


逃げる時のヤツの足の速さは異常だ。

すぐに振り返ったのに、もう人混みに紛れてる。



「菅野っ!!」


追っかけようかと思ったよ。

今のは俺の言葉が足りなかった…と思うから。


ーーでも、少しは分かれよ!

俺は今のままの菅野美結でいて欲しいだけなんだよっ!


変に高級志向に走らないで欲しいんだ!

天然でボケかます菅野が一番可愛いと認めてるから!



「…くそっ!あの恋愛処女め!また大事なところで逃げやがった!」


夜までずっと一緒にいて、夜景見ながらファーストキスのやり直ししてやろうと思ってたのにこれだよ。

捻くれるのやめるって言ったじゃねーか。


だったら逃げんなっ!



(……でも、今のはある意味、自分に正直な行動か……)



俺が逆ギレしたから怒ったんだよな。

まともな生活はどんなのか…って、もっと詳しく聞いてやれば良かったんだ。


…あいつにも金が要る理由があるんだろ。

確かに古本屋のパート代だけじゃ、貯金すらも難しーだろうし。


「だからって、派遣はねーよ……」


派遣先で俺よりもいい男に目ぇ付けられたらどーすんだよ。

オフィスに勤めてる男は、俺なんかよりも数倍カッコよく見える…って、アイツに散々聞かされたよ。


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