あるワケないじゃん、そんな恋。
午前11時が近くなった。
そろそろ羽田が出勤してくる時間帯。

何だかソワソワする。
落ち着かないーーー。



「あの…」

「はい?」


声を掛けられて振り向くと、いつぞやのお客様が側にいて。


「あの……誠に申し訳ないんですけど、あの本取って頂けませんか?」


またしても棚の上方にある本を指差す。

こういうお客様って面白いんだ。
マイナーな本ばかり見つけ出すの。


「はい!直ぐに。お待ち下さい」


「脚立に立つのはよせ!」って羽田は言ったけど、これも仕事だから断れない。


(第一、当の本人はまだ出勤してないし…)


来てても頼めたかどうかわからん。
昨日の今日で、羽田との間には距離が生まれてるから。



「…どれですか?」

「その端っこにあるイエローの表紙の本です。…そう、それそれ!」


簡単に言うなぁ。
端っこの本って、一番掴みにくいんだよねぇ。


(…えいっ!…えいっ!出てこい!!)


指先伸ばして必死になって手繰り寄せる。
指一本を引っ掛けた本の頭は、ようやく斜めになって出始めた。


(あと少し…)


肩と腕を伸ばしてる体勢って、意外と力が入るよね。
一生懸命になり過ぎて、呼吸するのも忘れてしまうし。


スポッ…


(やった!やっと取れた…!)




「すみません、お待たせしまし……た……」



あれ……?

また目の前暗い……


まずっ…

貧血…………




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