あるワケないじゃん、そんな恋。
「きゃああ!!」


デカい声がしたな…と思って、その場へ走って向かった。

古本屋の棚は高さがあって、視界が遮られる箇所が多い。

棚の間の通路を全部見ながら進んで、その場面に出くわした。



菅野は脚立に上ってた。そのあいつを支えてたのは背の高い男性客で。



「す、すみません……」


赤い顔して詫びてる菅野が元カノと重なったんだ。
変わったヘアスタイルのせいで、余計にそう見えてたのかもしれない。

足早に近づいてったら、その男が菅野に向かってこう言ったんだ。


「気をつけて。落ちたら大怪我するところだよ」


優しい物言いでさ、俺とは全然ん違うんだよ。

菅野もポ〜〜っとして見てて、何だか照れてるんだ。

それもきっと、俺の気のせいなのかもしれないけど、スゴくムカついてーー。



「菅野」


ビクつくようにこっちを向いた顔が、その後も頭から離れなかった。

戸惑うように視線を逸らしながら、その客に礼を言ったんだ。


「ど、どうも……ありがとうございました……」


こういう時ばっか女に見えるんだよ。

そんな可愛い顔するな。

俺以外の男にーーー!




「どういたしまして。菅野さん」


男は名札見て名前を呼んだだけ。
奴の視線見てたら分かるよ。
でも、菅野はそれを見てなかったみたいで。


「えっ⁉︎ あの…」


変に動揺してんじゃねーよ!
勘違いされたらどーすんだ!


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