あるワケないじゃん、そんな恋。
「上司との恋愛ってアリ?」

「さぁな?それがどうした?」

「あのね、ここの本棚、ほぼそういう系の話っぽいんだ。でも、私はそれがどうも解せない」

「どんな風に?」


羽田はキョロキョロと棚に並んだ本のタイトルを見比べて、ほぉほぉ…という感じで頷いた。


「上司と部下の恋愛って、実際にはあんま無いじゃん?だけど、本の中には溢れてる。それってやっぱ憧れだから?」

「…じゃね?俺はよく分かんねーけど」


羽田は私が最初に読み始めた本を抜き取り、1ページ目を読んで口笛を鳴らした。


「近頃の恋愛小説ってスゲェな。いきなりエッチシーンから始まるんか?」

「知らないよ。私も今日、初めて見たもん」


もう止しなよ…と本を取り上げる。
棚に戻し叩きを手にして、一冊一冊、本の頭を撫でていく。


「社長、御曹司、部長に課長か…。錚々たるメンバーだな」


自分の持ち場にも帰らず、私の持ち場の本を眺め続けてる。
その羽田に向かって、パタパタ…と叩きをかけた。


「邪魔しないで、あっち行って!」


邪険にされた羽田は唇を尖らせて頬を膨らませる。


「お前が先にサボってるから様子見に来てやったんだろ⁉︎ 」

「今はもうサボってないよ。さっさとあっち行って!」


背中を押しやる。
痩せっぽちの羽田の背中は、筋肉よりも骨の方がゴツゴツと掌にあたる。


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