あるワケないじゃん、そんな恋。
複合施設の正面玄関前でバスを降りる。

先に降りた羽田は、慣れないブーツに苦戦してる私の手を取った。


「転けんなよ」


変なとこでさり気なくサポートしてくれる。


「だ、大丈夫よ!年寄りじゃないんだから!」


可愛げのない、いつもの自分。

素直に「ありがと」と言えたら、幾らでも恋するチャンスがあったろうけどーーー



「どこ行くの?やっぱゲーセン?」


UFOキャッチャーとか、クリスマスアイテムかもね…と考えた。


「そんなトコには行かね。取りあえず、あそこ行こうぜ!」


指差す先に見えるのは看板。
最近出来た珈琲店のだ。


「あっ、何かあったかい物でも飲むの?いいね、それも」


「違う!ケーキ買いに行く!」

「えっ⁉︎ ケーキ⁉︎ 」

「お前、せめてケーキくらい食べたいって言ったろ。あそこのシューケーキ、美味いんだって。クマさん達が話してた」


「へ、ヘェ〜…」

「ほら!行くぞ!」


踵を返して先に歩く羽田を追っかける。


「ま、待って〜!」


ブーツって踵低くても歩きにくい。

走るとなると、余計でもそう思う。
膝が真っ直ぐ伸びたまま。

転げないから大丈夫…とタカを括ってたけど、そうでもなさそうだ。



(あっ、そーだ!)


「ねぇ、羽田ぁ…腕組んでいい?」


「何で?やだよ!」


一言でお断り⁉︎ 早ぁ…。


「だって転げそうなんだもん〜、いいでしょ〜⁉︎ 」


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