あるワケないじゃん、そんな恋。
「すみません、予約してた羽田と言いますが…」


ガラスケースの中身に目もくれず、羽田は店員の女の子にそう言った。




(えっ…⁉︎)


ビックリして顔を見上げる。



「羽田様ですね。少々お待ち下さい」


髪を二つに結んだ店員さんは、ニコニコしながら厨房に入ってく。


程なくして出てきた手には、小さな白い箱が握ってあった。


「シューケーキお二つでしたね。ありがとうございます」


毛先をクルクルに巻いた女子から箱を受け取り、初めて羽田が振り向いた。


「ほら、金払うからコレ持っとけ!」


「えっ…、あ…でも……」


ボー然。


いきなり何⁉︎

これってサプライズってやつ⁉︎



「……出るぞ。時間ないから急げよ!」


「えっ⁉︎ まだどっか行くの⁉︎ 」


「決まってるだろ!こっからがお楽しみなんだ!」


ドアを押し開けて先に通された。
背中を押す羽田の手が、ポン…と触れただけなのにーーー




ドキッ……と脈打つ心臓。



味わったことのないデートの感覚に、酔いしれそうになってる。


あれ程練習だって、心に決めてきたのに……。




ーーースタスタ…と先行く羽田の背中を追う。

手に持ってるシューケーキの箱を落とさないように、転げないように……そう思うだけで足が前に進んで行かない。




「あ〜、もうっ!!」



くるっと振り返った羽田が怖い顔して近づいてきた。


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