あるワケないじゃん、そんな恋。
菅野は今から1年半前に入店した。

土砂降りの雨が朝から続いてる日で、古本屋は何故か大忙し。

雨が小降りになる間、立ち読みをする客で賑わってたせいだ。


「羽田ちゃん」


店長の佐々木さんに手招きされて奥の事務所へ向かうと、長い髪を二つに結んだ菅野がボ〜〜ッと突っ立ってた。


「今日から新しく入るパートの菅野 美結(かんの みゆ)ちゃん。羽田ちゃんと同い年らしいからご指導よろしく頼む」


人のいい所だけが取り柄の店長にそう言われ、(え〜〜⁉︎)と思いながら奴を見た。


「初めまして、菅野と言います。よろしくお願いします。羽田さん」


色白な顔した奴の口から「羽田さん」という言葉が聞けたのは最初の数日間だけだったな。
直ぐに仕事にも慣れてタメ口で話すようになって、今じゃお構いもなく呼び捨て。

同い年だからいろんな面で話が合って面白かった。
言葉がハモる事が多くて、皆から「双子みたい!」とからかわれることもあった。

そんな菅野を女として意識したのはいつだったっけ。

去年の年末最後の開店日、もしかしたらそこがターニングポイントだったかもしれない。



寒風の吹きすさぶ中、注連飾りを取り付けようと店の前で悪戦苦闘してる菅野の姿を見かけた。

慣れない脚立の上に立ち、ヨロヨロしながらフックに引っ掛けようとしてる。

その体勢が危なかっしくて、後ろから声をかけたんだ。



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