あるワケないじゃん、そんな恋。
「気に入らないならほっとけよ!それよりコレ、そろそろブーツ履けよ!ほらっ!」


足元に置き捨ててあったブーツを放り投げた。
手元に飛んできたブーツをキャッチして、もう一度羽田に噛み付く。


「羽田のバカ。女子の靴はもっと丁寧に扱って!」

「何だよ、菅野は女子じゃねーだろ。恋愛もエッチも未経験者なままなんだから」


ガキ以下だな…と要らない言葉まで付け足され、カチンと頭にきた。


もう我慢できない!
何なの、今夜の羽田は!



「…もういい!私、帰る!!」


怒りながらブーツを履き直した。



「何処へ?今、観覧車回転中だぞ?」


足を組んだまま呆れるような横顔を向けられる。


「このボタン押せば連絡できるでしょ!体調悪いから降ろさせてって頼むの!」

「アホか。そんな事させねーし!」

「イヤよ!絶対に出る!不機嫌そうな羽田と一緒にいる程、心広くないもん、私!」


壁に備え付けられてあった非常用のボタンを押そうとした。
慌てた羽田は立ち上がり、「待てっ!」と叫んで手を握った。


グラッと大きく揺れたゴンドラにビクついた。

去年の年末、注連飾りを付けようとして脚立から落ちそうになった時の事が頭に蘇った。


ぎゅう………と近くにいた羽田の首につかまった。

驚いた羽田は一瞬上体を仰け反らしたけど、後はじぃーとしてる。



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