あるワケないじゃん、そんな恋。
「菅野……」


耳元で聞こえる声が優しい…。

羽田だからそう思うのかな…。



「離せ。苦しい…」


ポンポン!と腕を叩かれて我に戻る。




(ーーヤバい!やってしまった…!!)


恥ずかしくなりながら緩める腕。

少し離れた羽田の顔が間近に見えて、ギクッとした。




「ご、ごめん……!」


引っぺがす様な勢いで羽田から離れた。

ファーストキスのことを思い出して、大きく胸が震える。



「全く……降りようなんて考えんなよ。折角手に入れたチケットが無駄になんだろ⁉︎ 」


怒りもせずに私から離れていく。
大人な対応の羽田は、少しだけ私よりも年上みたいに思える。


「もう一度、港ホテルのイルミネーション見るって張り切ってたじゃんか。一回分の料金で二周楽しめるなんて、今日か大晦日くらいらしいぞ。降りたら解放してやる。…後は好きにしていいから…」


「……えっ⁉︎ それどういう意味……?」


ズキン…と別の痛みを感じた。
驚いて聞き返す私に目を向けて、羽田は小さく肩を上げた。


「解散しよう。後は別行動。帰りは気をつけて帰れよ。俺は送らねーから!」


「なっ……」



何で…?という言葉を呑み込んだ。

羽田の目が本気だっていうのは、顔を見てたら分かる。



「そ……そう…。じゃあ100均でプレゼントも買わなくていいんだ…。ラッキー…」


明るくそう言ったら、羽田は最初から期待してねぇ…と呟いた。


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