あるワケないじゃん、そんな恋。
クマさんと呼ばれる男性店員が身を寄せてくる。
背が高くて丸太ん棒みたいな体つきのクマさんに寄られると、嫌でも圧倒されてる気がする。


一、二歩下がってクマさんを見た。
何故かしら期待の眼差しが注がれてるような…。


「付き合うことになった…と言うか、まあ成り行き上仕方なく…みたいなもんですけどぉ…」


完全に売り言葉を買っただけです…と話すと、ガシッと両肩を掴まれた。



「それでもめでたい!」

「菅野ちゃん、あんたは救世主だ!」

「いよっ!大統領!!」


バイト君までが茶化す。
そもそも、皆、どうして知ってるの⁉︎
私は昨日、羽田とだけ飲んでた筈なのに。





「ち〜〜っす」


気だるそうに羽田がやって来た。
私同様、男性店員が取り囲む。


「羽田ちゃん、聞いたよ!」

「居酒屋で告るなんてやるねー!」

「グッジョブ、先輩!」

「見事、彼女ゲット!おめでとうございますっ!」



「……へっ⁉︎ 」


まさか…って顔してこっち見ないでよ。
私は何も言ってないからね。


「これで童貞卒業だね!」

「見事初体験成功の折には是非奢らせてくれ!」

「一緒に祝おう!君ら二人の未来を!」




「あのな…」
「あのね…」


二人で声を揃えてしまった。

羽田とは変なとこでいつも気が合う。

今回が初めてじゃない。

こんな事は前から結構あった。

でも、今はそれについて語ってる場合じゃないからさ……。


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