【短編】ある一日【エムな娘】
「じゃあ、おやすみなさい」
「ん、お疲れ」

郵便受けの前で同僚に手をふる。そのまま階段をのぼろうとすると、あ、という少し間抜けな声が聞こえた。

「そうそう。あんたの部屋、新太郎が来てるよ」
「はあ!?」
「また追い出されたんだってー。ウケるよね、あいつ」


新太郎。私の働く店の同僚。
とは言っても、彼は私たちと違って特別な性癖を持っているわけではない。ただの雑用のバイト。

そういう性癖でない人間があの店にいるのは異質だったし、あの店にいることが耐えられるなんて不思議な力を持っているようにしか思えなかった。

でも、ただの雑用バイトの彼は寮にいれてもらえなかった。

まあ、バイトにそんな待遇があったら驚きものだけれど。だから家賃が払えないとやら何とやらで(たぶん新太郎の素行が悪いんだと思う)、彼はよく住んでいるところを追い出されていた。それで寝床と食事を求めてこの寮に来て、襲われる心配のない安心な私のところにくる。

新太郎にとって不幸なことに、いま寮にいるのは女性ばかりで私以外全員がS嬢だった。

可愛らしい、女の子のような外見の新太郎はS嬢に一度ひどい目にあったらしい。詳しくは語られないが要は泊まらせてもらったら襲われた、とかそんなところだろう。

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