【短編】ある一日【エムな娘】
部屋の前のドアは開いていた。
鍵はポストに入っている桜色の封筒の中。
新太郎はいつの間にかそのことを知って、こうして度々私の部屋で勝手に寝泊まりをしていた。
「あ、お帰り。上がってるよ」
「もー…。勝手に入らないって言ってるでしょ!」
「だったら鍵の隠し場所変えたらいいじゃんか。本当は嬉しいんだろー?」
図星。言葉が出なかった。
正確に言えば「嬉しいというよりも一人でいるのが寂しいから」というのがしっくりくる。
けれどそんなことを言うのは恥ずかしかったし、新太郎もたぶん知っていることだからわざわざ言うこともないだろう。
そう思って私はとんだ勘違いよ、と子供のように語気を荒くすることしかできなかった。
「とにかく、私は寝るから。ご飯作ったら起こして」
「ん、了解。期待しててよ」
「はいはい。おやすみ」
「おやすみー」
ああ、これがいいのだ。安心する。誰かがいる。返事がある。