愛しいあなたへ~song for you~



声が出なかった。






言いたいことは、

いっぱいあった。





でも、

声がまるで、

枯れたようだった。






…美由は、

気付いてない…。




自分が、

どんな演奏してるかも…。



…止まることなく、

こぼれ落ちる涙にも。






演奏が終わって、

ようやく

自分が泣いていたことが

わかったらしい。





「…美由ちゃん、大丈夫?」



そこにいた女子が、

そう聞いた。


もう泣いてるのに、


また無理して、

笑顔作って。






「…ごめんね。

心配させちゃったね…

私、頭冷やしてくるね。」







そう言って、

こっちの方に走ってきた。




あの時、美由は、

俺を見て固まっていた。





今までに無い位、

怯えた目に

涙を浮かべて。





何か言ってくれるのを

待っていた。






でも、

美由は、何も言わず、

目を反らして、

俺の横を擦り抜けた。






あまりにも呆気なくて、



寂しそうな美由に




追い掛けたい

…そう思って、






走りだそうとすると、

腕を強く掴まれた。





< 61 / 130 >

この作品をシェア

pagetop