おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
ラララ不動産では、営業マンたちは営業所での仕事に余裕があるとき、区内のアパートや賃貸マンションを一軒ずつ回り、

住宅説明会や展示会の広告をポストに入れたり、インターホンを押して直接宣伝したりしている。


正直なところ、外回りは面倒な仕事だし、たいていは邪険にあしらわれるらしいから精神的に負担も大きくて、営業マンたちは嫌がっている。


でも、トラは上からの命令がなくても、自ら進んで行っている。

不動産屋にいきなり来店するというのはハードルが高いから、なかなか踏み出せていない人も多いはずだから、こちらからの行動も大事なんだと言っている。

確かに、トラは外回りで新しい顧客を見つけてくることが多かった。


「さすが、エースは違うねえ」


私はいつものように、からかう調子で言った。

トラもいつものように肩をすくめて聞き流す。


そのままトラは昼ご飯を食べに行くだろうと思っていたのに、なぜか席を立ち、私の背後にやって来た。


「ん、なにそれ。………旅費の報告書?」


ホチキス留めをしている私の手もとを覗きこみ、トラは眉をひそめる。


「それ、総務部長の仕事だろ。なんでうさがやってんの?」

「………ええと」

「どうしたんだよ」

「まあ、人生、そういうこともある」


へらっと笑って答えると、トラが深くため息をついた。


「………しかたない、手伝ってしんぜよう」



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