おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
私は慌てて首を横に振る。


「えっ、いいよ! お昼食べてないんでしょ?」

「それはうさも同じだろ」

「そうだけど、トラは関係ないのに」

「関係ないことはないだろ、同期なんだから。困ったときはお互い様ってやつだよ」

「えー……でも、」

「つべこべ言ってないで、ほら、さっさと手え動かせよ」


トラは自分のデスクからホチキスを持ってきて、勝手に私の手から紙の束を奪い取り、私の隣に腰を下ろした。


「さっさと終わらせて、コンビニに昼メシ買いに行こう。な?」


にっこりと笑いかけられて、私は黙って頷くしかなかった。


ひっそりと静まり返った事務所で、二人きり。


「しかしなあ、総務課長にも困ったもんだな。うさに仕事、押しつけるなんて」

「………」

「お前も大変だなあ、いつも」


トラの声を聞いていると、なぜか目頭が熱くなってきて、私は慌てて目をこする。


「どうした? うさ」


めざとく気づいて声をかけてくるトラ。

私は「ちょっと目がぼやけたただけ」と答えて、トラから顔を背けて作業に戻る。


「疲れてるんじゃないか? たまには休憩入れろよ」


トラが労るような口調で言った。

その優しさが、今はつらくて、腹立たしい。


私はトラの存在を意識から追い出すようにして、ホチキス留めに没頭した。



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