おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「それにしても、この部屋、広いねえ」



香苗がぐるりと部屋を見回して、感心したように言った。



「この部屋に一人で住んでたわけ? その彼は」


「うん。でも、彼女と同棲するつもりだったって言ってたけど」


「へえ? それがその婚約者さん?」



香苗が何気なく言った言葉に、私ははたっと動きをとめる。



………たしかに。


そのあたりははっきりしない。



トラは確かに、恋人と同棲するつもりで借りたと言っていた。


それなのに別れてしまったのだと。



それが五十鈴さんのことを指すのだとすれば、彼女と一緒に住むつもりだったのに別れたということになる。


でも、五十鈴さんとトラは婚約しているわけだし、一度別れたという雰囲気でもなかった。



………あれ?


じゃあトラは、婚約者がいるのに他の女の子と付き合っていて、しかも同棲するつもりでいたってこと?



そこまで考えて、いや、トラがそんなことをするとは思えない、と私は首を振る。



私が混乱しているかたわらで、香苗も香苗で首を傾げている。



「じゃあさ、そのトラって人は、同棲までするつもりの婚約者がいるのに、真子にルームシェアを持ち出したわけ?

それってなんか変じゃない?

もしかして、とんでもない女たらしなんじゃ」



「それはちがう! トラはそんな男じゃないから!」




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