おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
顔を洗い終えて、化粧水を染み込ませたコットンで顔を拭きながら、隣でネクタイを締めているトラに声をかける。


「今日の朝ごはん当番、私だっけ?」

「おう、そうだな。眠いなら代わろうか?」


トラが気づかうように私の顔を覗きこんでくるので、私は首を横に振った。


「いいよ、いいよ。眠いのはいつものことだし」

「そか? ならいいけど」


トラは微笑んで洗面所を出ていった。


優しいねえ、と私は独りごちる。


一緒に暮らすようになって、私たちはあっという間に仲良くなった。

トラの口調はどんどん砕けていって、会社で見せるのとは全く違う顔も見せてくれるようになった。


それでも、トラの穏やかさや優しさは全然変わらない。

きっと、今まで付き合ってきた女の子たちにも、こんなふうに優しく、気づかいを忘れなかったに違いない。


そりゃモテるわ、と私は納得したのだった。



ベースメイクを終えた私は、キッチンに入った。


トラはリビングでいつものように新聞を読んでいる。

勉強熱心なトラは、特に経済面は仕事に直結するからと言って、じっくり目を通すのだ。


鮭の切り身を魚焼きグリルで焼いている間に、だし巻き玉子を作る。

海苔を軽くコンロの火で炙って、平皿にのせる。

小鉢に納豆を入れて、葱を刻み入れる。


茶碗にご飯をよそい、温めた味噌汁をお椀に入れてテーブルに置くと、トラがにっこりと笑った。



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