おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
食事を終えると、私たちは並んで歯を磨き、

それからそれぞれの部屋に戻って身支度を調えて、荷物をもって玄関に集合した。


「さて、出陣しますか」

「そうだね、我らの戦場へ」

「うさ、月末だし帰りは遅くなる?」

「うん、たぶん。締めが迫った伝票、いっぱいたまってるんだよね………」

「そか、大変だな。まあ、あんま無理すんなよ」

「はあい」


駅まではいつも一緒に歩く。

このあたりに住んでいる同僚がいないことはちゃんと確認済みなのだ。


「わあ、いい風!」


ふわりと吹いてきた風に、私は目を細める。


「だいぶ涼しくなってきたな」

「もう9月だもんね」


少し早めにマンションを出て、トラと並んでのんびり歩くこの時間も、私のお気に入り。


でも、電車に乗ってしまうと知り合いに会う可能性があるので、ここから先は別々だ。


「じゃ、またね、トラ」

「おう、がんばれよー、うさ」


改札の手前で互いに手を振り合い、私たちはさりげなく距離をとって、他人のふりをして歩きはじめる。


素知らぬ顔をして電車に乗り込むと、たまたまトラが隣の車両に乗っていて、間のドアごしに目が合った。

トラが口許だけでにっと笑う。

私も小さく笑った。


こういうのも、意外と楽しいものなのだ。




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