おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
トラの席に目を向けると、営業部の打ち合わせが始まっていた。

営業部長がてきぱきと指示を出している。


「小野は今日は立川さんとこ行くんだったな。吉田と加藤は飛び入り対応な」

「はい」

「長谷川は外回り、頼んだぞ」

「はい、がんばります」

「あと、今日はN区内で土地をお探しの山本さんがいらっしゃるからな、丁重に対応しろよ。日比野、お前いけるか?」

「はい。目ぼしい土地をリストアップしてあります」

「さすがだな。頼むぞ」


山本さんは高収入世帯のお客さんで、100坪くらいの広い土地を探しているらしい。

このあたりの相場でいくと、ゆうに5000万円近くになるだろう。

高額な土地の契約がとれれば、うちに入ってくる仲介手数料もかなり大きくなる。

だから、営業部では今いちばん力を入れているお客さんなのだ。


その重要な案件がトラに任されたことに、私はなぜか、自分のことのように誇らしくなる。


きっと私しか知らないけど、トラは本当に努力しているのだ。



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