おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「お疲れ様です」


ことん、という音に私は顔をあげる。


まず初めに目に入ったのは、赤木さんのデスクの上に置かれた缶コーヒー。

その次にまた、ことっと私のデスクに缶コーヒーが置かれる。


「あんまり無理しすぎないでくださいね」


いたわるような声で言いながら、私と赤木さんを交互に見ているのは。


「ト………日比野くん」


極上の微笑みを浮かべたトラだ。


「二人とも、遅くまで大変ですね。つまらないものですが、差し入れです」


トラがにっこりと言うと、赤木さんが「わあ」と声をあげた。


「ありがとう。さすが日比野くん、気がきくわねえ」

「そんな、ただの缶コーヒーですし」

「でも、この切羽詰まった状況でもらうと、格別に嬉しいわよ」

「そうですか、よかった」


人懐っこい笑顔でトラが頷くと、赤木さんもにこにこと微笑んだ。


赤木さんったら、ふだんはクールキャラなのに。

トラ、おそるべし。




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