おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
*
「たっだいまー!」
マンションのエントランスで部屋番号を呼び出し、マイクに向かって声をあげると、
インターホンの向こうから、苦笑いを含んだ声が『声でけえよ』と答えた。
『いま開けるから大人しくしてろ』
「はあーい」
すぐにエントランスの自動ドアが開く。
私はロビーを抜けて、エレベーターに乗り込んだ。
最上階についてドアが開いた瞬間。
「おかえり、うさ」
トラの笑顔が出迎えてくれた。
「ただいまー。お腹すいた!」
「はいはい、もう用意できてますよ」
「さすがトラ!」
嬉しさのあまり、私はトラの脇腹をつつく。
トラは「いてて」と言いながら私のバッグをさっと奪い取った。
なんともさりげない気づかい。
うーん、お見事。
トラのやつ、なんて紳士的なんだ。
女の喜ぶコツをよく心得ていらっしゃること。
でもまあ、本人としては、それを狙ってやってるわけじゃないんだよね。
だって、ものすごく自然な仕草なんだもん。
そうするのが当たり前って思っているのが伝わってくるのだ。
そりゃモテるはずだわ、と私はいつものように思う。
ほんっと、天然の女タラシだな、こいつは。