おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「あーはいはい、分かった分かった。火い使ってんだから離れろ、うさ」

「はーい」


トラから身を離しながらコンロに目をやると、フライパンの隣に小鍋が置いてあるのが目に入った。


「あれ? もう一品あるの?」

「おー、パスタだけじゃ味気ねえかと思って、アヒージョ作ってみた」

「えー、すごい!」


顔を近づけてみると、オリーブオイルの中に小海老とエリンギが入って、ぐつぐつと煮えている。

香ばしいガーリックの香りがふわりと漂ってきた。


「あー、いいにおい! ほんとお腹すいたー、もう我慢できない!」


鼻をくんくんと動かしながら言うと、トラがぷっと噴き出した。


「煮えるまでもうちょっとかかるぞ」

「ええっ、待ちきれないよー」

「お前はガキか。しゃあねえなあ」


トラが目を細めながら、菜箸で海老をつまんだ。


「味見するか?」

「するー♪」


私は即答した。


「じゃ、口あけろ」


トラがつまんだ海老を顔の前に差し出してくれる。


「あーん」


私は大口を開けてぱくりと食らいついた。


「ははっ、餌付けしてるみてえ」


トラはくくくと笑って、「うまいか?」と訊いてきた。


「最高! さすがトラ」

「そりゃ、どういたしまして」



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