おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「………それって、つまり、そのトラとかいう同期くんのこと、好きなんじゃないの?」


デザートに運ばれてきたパンナコッタをスプーンですくい、香苗が私の顔色を窺うように覗きこんでくる。

私はぷっと噴き出して、さっきの香苗と同じように「ないない、ありえない!」と手を振った。


「だって、トラは全然私のタイプとちがうもん。トラの好みも私と正反対のキレイ系の年上女性らしいし」

「ほんとに?」

「ほんとほんと。ってか、好みのタイプだったらお互い意識しちゃって、穏やかに暮らしたりできないでしょ」

「じゃ、全く男として意識してないの?」

「これっぽっちも! だから、元カレと同棲してたときより、何百倍も楽しく生活してますよ」


言っているうちに、全くその通りだ、と改めて実感する。

トラとの暮らしは、前の恋人との同棲生活より、そのラブラブだった初期に比べてもずっとずっと、楽しくて平和で落ち着いている。

本当に居心地がいい。

楽しいことばっかりで、嫌なことなんて一つもない。


「だからさ、世間的には変かもしれないけど、私的にはものすごく気に入ってるの。なんか、気心の知れた幼馴染みとか、気を使わなくていい親友とか、家族と住んでるみたいな感じでさ」


香苗は『お手上げ』というように肩をすくめて、大口を開けてパンナコッタを食べた。



< 44 / 190 >

この作品をシェア

pagetop