おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
内心、鬼のような形相で怒り狂いつつも、表面的には申し訳なさを装う。

社会人になってから、私は自分の心をごまかすのが上手くなった。

昔は『裏表がない』とか、『嘘がつけない』とか言われていたのに。



「会田さんがお忙しいことは重々承知しているんですが………。

今日中に出していただかないと、事務としても処理をしないといけませんし、上に報告する期日も決まっておりまして………」



板挟みのつらさを分かってほしい、という思いをにじませてみた。

………んだけど。



「はあ? 事務処理の締め切りなんてどうにでもなるだろ?

どうせ一日中デスクに座ってるだけなんだから、時間はいくらでもあるだろうが」


「………え」



まさかの反論に、私は言葉に詰まってしまった。

すると会田さんは、まるで的を射たかのような得意気な顔で、さらに言い募ってくる。



「俺たち営業はさあ、本当に忙しいんだよ。


お前たちみたいな事務職はさ、俺たちが営業所で客対応してるとことか、デスクで書類作ったりしてるとこしか見てないから、分かってないんだろうけどなあ。

客連れて物件見に行ったり、チラシ配ったり、夜に色んな家を訪問して客つかまえたりもしてるし。

お前らが知らない仕事がゴマンとあるんだよ。


正直、事務仕事なんてちまちまやってる時間も余裕もないんだよ。

それなのに、たった一日、書類の締め切り過ぎたくらいで、ぐちぐち言いやがって。


俺らの苦労も少しは考えろってんだよ」




< 58 / 190 >

この作品をシェア

pagetop