おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
あまりの自分勝手な言い草に、私はもはや唖然としてしまって、返す言葉もない。



営業部の人たちが忙しいことなんて、言われなくたって分かっている。

プレッシャーも大きいし、暗黙のノルマだってある。

それは大変な仕事だろう。


でも、事務方だって暇なわけでも、楽なわけでもない。

というか、うちみたいな中小企業だと、事務が請け負う部分が大きくて、大企業の経理部や総務部がやる仕事を一手に引き受けているのだ。

残業時間を比べれば、営業も事務もさほど変わらない。


確かに外回りはないけど、いつも大量の書類の山に囲まれて、締め切りに追われているのだ。


それなのに………。



「ったく、暇人なしがない事務員のくせして、営業部に仕事急かしてくるなんて、どんだけ馬鹿なんだか……」



ものすごく腹が立つ。


どうして総合職の人たちって、事務職を馬鹿にしてくるんだろう。

どっちも同じ仕事なのに―――。




『この頭でっかちなクソ野郎!』という言葉が、喉もとまで出かかった。




―――その、瞬間。




「お話し中、すみません」




場違いなほど軽やかな声が、私と会田さんの間に降ってきた。


私と会田さんは同時に顔をあげる。


そこには、白雪姫の王子様もびっくり、というほど優しげでおだやかな笑みを浮かべた………トラがいた。




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