おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
トラはいつものように穏やかな態度で、でも少し肩を落として、まっすぐに会田さんを見下ろしている。



「会田さん………」



トラは眉を下げ、心から申し訳なさそうな表情で会田さんを見つめた。



「僕って本当に鈍くて、ぜんぜん気づかなかったんですけど………会田さんってそんなにお忙しかったんですね」



トラは深々と息をつく。

会田さんが「え」と動きを止めた。



「本当に申し訳ありません。

お手伝いしますんで、なんでもおっしゃってください」



トラの突然の申し出に、会田さんは「あ、う………」とうめき、はちきれそうなほどに目を見開いた。



「あ、遠慮なんて全然いらないんですよ。

二、三枚の書類も書く時間がないくらい、お忙しいんですよね?

僕なんかじゃ力不足だって自覚はしていますが、少しでもお役に立てることがあるなら、遠慮なくおっしゃってください。

ね? 会田さん」



トラがにっこりと極上の笑みを浮かべる。


その顔に見つめられて、会田さんは面白いくらいに青ざめていった。



「営業の外回りでそんなにお忙しいなら、僕がお手伝いしますよ」



トラのその言葉は、まるで最後の審判の宣告文のようだつた。




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