おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
そのとき初めて気がついたけど、私たちの周りでは、他の社員たちが息を呑んで成り行きを見守っていた。


会田さんもそれに気がついたようで、決まりの悪そうな顔になる。

それから、しどろもどろに釈明を始めた。



「い、いや………別に、日比野くんに手伝ってもらうほどのことは………」


「ええ? そんな、遠慮なんかしてくださらなくて結構ですよ」



トラが会田さんをじっと見つめて、容赦なく言葉を続ける。



「だって、書類の締め切りに遅れるなんて、相当なことですよね? 会田さんってしっかりされてるから、きっと今まで一度も遅れたことなんてないでしょう?」


「え、あー………それは」


「そんな会田さんが今回は本当に手一杯ってことですもんね。僕はなんとか都合つけられるので、お手伝いさせてくださいよ。あ、なんだったらその書類、僕がやりましょうか?」


「いや、それは、うん、大丈夫………」


「いやいや、ほんと遠慮しないでください。困ったときはお互い様って言うじゃないですか」


「あー………」


「それに、期日に遅れたら、事務の皆さんが大変になっちゃうと思いますし、ね」



トラは私のほうをちらりと見て、にっと笑いながらそう言った。



「事務のほうに迷惑かけないためにも、営業部のよしみで、お手伝いしますよ」



キラキラとした笑みで言われて、会田さんは言葉を失ってしまったようだった。




< 61 / 190 >

この作品をシェア

pagetop