おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―







昼食を終えると、私はその足で一階の営業所に入った。

午後一番でお茶当番が入っているのだ。


お茶当番というのは、営業所に訪ねてきたお客さんにお茶やお菓子を出す仕事だ。

事務方の女子社員が持ち回りで担当している。


面倒がる人も多いし、男女差別だという声もあがっているけど、私は個人的に、この当番が嫌いではない。

だって、上の階でデスクワークばかりしていたら、直接お客さんの顔が見られる機会なんて、皆無に等しいのだ。


それに、客対応をしている営業部の人たちの営業トークが聞けるというのも、なかなか楽しい。

人によってこんなにも営業ぶりに個性が出るものなのか、と興味深いのだ。


ベテラン営業マンはこれまでの知識や経験を活かして、自信のみなぎる口調で色んな案をどんどんお客さんに提供しているし、

新人くんは新人くんなりに精一杯に調べた結果を一生懸命伝えようとしている。


そんな試行錯誤の様子が間近に見られるから、お茶当番も面倒なばかりではないと思っている。



「あっ、ト………日比野くん」


営業所の入り口のドアを開けようとしたところで、ベンチに座って缶コーヒーを飲んでいるトラを発見して、私は声をかけた。


トラが顔をあげて「おう」と微笑む。



「おつかれ、うさ……みさん」



周囲にさっと視線を走らせると、まだ昼休憩の時間だからか、ひと気はない。

私は安心してトラの隣に腰をおろした。



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