おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「おい、いいのかよ? 誰か来るかもしれないぞ」



トラがぼそぼそと耳打ちしてきたので、私も声のボリュームを落として答える。



「んー、まあ大丈夫でしょ。言い訳のしようはいくらでもあるんだし」


「そうかあ? ま、俺はどっちでもいいんだけどな」


「ね、そんなことより………」



私はトラに向き直って、両手の手のひらを合わせる。



「ほんっとーにありがとう!」



拝むようにしてひそひそと言うと、トラは「ん?」と目を丸くした。



「なんだ、どうした急に」


「ほら、さっきの、会田さんのこと!」


「あー、アレな」



トラが思い出したように頷いた。



「災難だったな、うさ」


「本当だよー、もうやだ、あの人に書類請求するの………」


「いつもあんな感じなのか?」


「んー、だいたいね」


「そりゃ大変だな」


「そうなのよー! ………でも、今日はトラのおかげで助かっちゃった。ほんと助かった、ありがとね」



感謝をこめてぺこりと頭を下げると、トラが「どういたしまして」と微笑んだ。



「俺、ああいうタイプ、好きになれないんだよなあ」



トラは声を落として、溜め息をもらしながら頭の後ろで手を組んだ。


私は「そうなんだ」と返す。

トラは会社ではいつも穏やかな表情をしているので、好き嫌いがよく分からないのだ。



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