おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「忙しい忙しいって口先ばっかで、営業部の仕事は他人任せにして、自分の仕事しかやらないんだよな」



トラは心底嫌そうに顔をしかめている。

会社の人には絶対に見せない顔だな。



「うわ、マジで? いるよねー、そういう人」


「そのくせ、他人に対してはああいう嫌味ったらしい口のききかただろ? 自分のこと棚に上げてんじゃねえよ!って言いたくなるわ」


「あー、言いたい言いたい………言えないけどさあ」


「とりあえず、せめて仕事の締め切りくらいなんとか守れよってな。あー、思い出しても腹立つわ、うさに対するさっきの態度!」


「ありがとねー、そう言ってくれる人がいるだけで救われるわー」


「そりゃよかった。しかしあの人、なんとかならんもんかねえ」



トラはもう一度ため息を吐き出した。

なんだかおかしくなって、私はぷっと噴き出してしまう。



「トラって、ほんと外面いいね。会田さんに対してそんなこと思ってるなんて、これっぽっちも分からなかったんですけど」


「そりゃ、顔に出したら終わりだろうが。同僚なんだし、居心地悪いったらないよ」


「まあそうだよね」


「オトナの処世術ってやつだよ。うさもさっさと身につけろよ?」


「ん? どういう意味?」


「さっき会田さんと喋ってるとき、眉間に皺寄ってるわ、頬はぴくぴくしてるわ、なかなか分かりやすい顔してたぞ」


「えっ、マジで!?」



私は慌てて頬を押さえたけど、時すでに遅し。



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