おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
空気を変えたくて、「ところでさ」と話を戻す。



「その点、トラは偉いよね。なんていうかさ」



私は「お見事!」と言いながら、トラに向けてぱちぱちと拍手を送った。



「って感じだったよ。さっき助けてくれたとき」


「ん? どういうことだよ」


「だって、会田さんの気分を害さずに、でも私が困らないように会田さんの言い分を変えてくれたわけでしょ? どこにも波風たてずに丸くおさめちゃってさ。なんていうか、華麗な手際だった。尊敬しちゃうよ」


「そうかー? 俺として嫌味言っただけのつもりだけどな。まあ、今回はたまたま上手くいったんだろ」



そのとき、廊下の奥から足音と話し声が聞こえてきて、トラは「じゃ、またあとで」と手を上げて、営業部の中に入っていった。



トラはああいうふうに言っていたけど、たまたまなんかじゃない。


トラはいつだって、近くでぎすぎすした雰囲気を感じるとさっと現れて、両方の気持ちを荒立てることなく、見事に取り成してみせるのだ。


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