おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
そういえば、少し前にも、今日と同じようにトラに助けられたことがあった。


うちの会社では、契約数アップのために、一度物件を紹介したお客さんには、似たような物件が売りに出た場合にその情報を載せたメールや手紙を送っている。


その作業は、各客ごとの情報の集約と印刷、そして封筒に入れるところまでが営業部員の仕事で、

その封筒を預かって郵便局に持っていって発送するのが事務の仕事という役割分担になっているんだけど。


それなのに、山口さんという人はいつも、

『○○さんのところに□□町の新築物件の情報送っといて』

と指示だけを出して、自分では印刷も封入作業もしない。


その山口さんがある日、いつものように横柄な態度で私に指示をしてきたのをトラが聞きつけて、

『それは営業部の仕事なので、山口さんがお忙しくて出来ないんなら、僕が手伝いますよ。事務の皆さんにご迷惑おかけできないですから』

と声をかけてきたのだ。


それを聞いたときの山口さんの顔は見物だった。

ざっと顔色が変わって、『いや、俺がやる』と即答。


今日の会田さんもそうだけど、営業の人たちは、トラが『手伝いますよ』と一言言った瞬間、がらりと態度を変えて『自分でやる』と言い始める。


なぜかって、それはトラの仕事の丁寧さを知っているからだと思う。

トラに手を出されてしまったら、自分の仕事を奪われてしまうと思うんだろう。



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