おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
営業の手紙を送るときも、トラだけは、印刷した物件情報に蛍光ペンでマーカーを引いたり、ふせん紙をつけて周辺環境の説明を書き加えたりと、

他の営業マンは誰もやっていない手仕事を加えているのだ。


そんな手の込んだ手紙が送られてきたら、お客さんは絶対に目を引かれて、ラララ不動産に対する心証も良くなるに決まっている。

だから、営業所にやって来てトラを指名するお客さんが多いのは当然だ。


トラの仕事ぶりに一目も二目も置いている営業部の人たちは、だからこそ、トラから手伝われることを嫌う。

自分の仕事が劣ってることを実感させられるから、という気持ちもあるのかもしれない。



そんな自分の立ち位置をよく自覚しているトラは、いつも自分が出ていくことで社内の揉め事にさらりと片を付けてしまうのだ。


そういう敏感さとか、気遣いができることとか、人当たりの良さは、本当にすごいなと思う。

真似したいけど、私には無理そうだ。


というか、トラみたいな立ち回りができる人は、他に見たことがない。


一体、トラは今までどんな生き方をしてきたんだろう。

どういう家庭環境で育ったら、あんな人間ができあがるんだろう。



そんなことを考えながらお茶の準備をしていると、外からお客さんが入ってきた。

社員一同で席を立ち、「いらっしゃいませ」と声をかける。




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