おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
中年の女性だ。

壁一面に貼られた物件情報や、社員が詰めているカウンターの内部にきょろきょろと視線を巡らせているところを見ると、初めての来店のようだ。


トラがさっと動いて近づき、微笑みながら声をかける。

それからカウンターの椅子に案内して座らせた。


私は湯沸しポットのふたを開けてお湯の残量を確かめ、冷蔵庫のドアを開けて飲み物のストックがそろっているのを確認して、ついでに氷もチェックする。

うん、ばっちり。


お客さんのほうに視線を戻すと、トラが差し出したドリンクメニューを見ていた。

私はカウンターにゆっくりと近づく。

トラがちらりと振り向いたので、足を早めてトラの後ろに立ち、お客さんに「いらっしゃいませ」と声をかけた。


トラが顔をあげて微笑みをつくり、私にアイコンタクトを送ってくる。



「宇佐美さん、ホットコーヒーお願いします。砂糖はいらないそうです」



私はトラにならって笑みを浮かべ、「はい」と頷いてお客さんに会釈をして、給湯室へ戻った。




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