おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
*
「トラー」
日曜日の朝。
朝食の後片付けを終えて、洗い物の水で濡れたキッチンカウンターを拭きながら、リビングのソファに座っているトラに声をかける。
でも、トラはテーブルの上に広げた新聞に視線を落としたまま、ぴくりとも動かなかった。
「トラー?」
珍しいな、と思ってもう一度呼んでみても、やっぱり無反応。
私はリビングに移動して、トラの横に腰をおろした。
トラがちらりと目をあげた。
「もう、何回も呼んだのに」
私がいじけたように言うと、トラが「え、うそ」と目を丸くした。
「ごめん、気づかなかった」
「いいけどさ。なんかすごい集中してたね。なに読んでるの?」
私はトラの手元に目を落とす。
「あー、この記事だよ」
トラが指差したのは、『ABC不動産社長が語る業績アップの秘訣』という記事だった。
「ABC不動産かあ。同じ不動産屋とはいえ、ラララからしたら雲の上の会社だよねえ」
私は頬杖をついて呟く。
「まあ、規模は確かに違うよな」
トラは腕を組んでうなずいた。