おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
ぶつぶつと独り言を言っている自分の不気味さに辟易して、口をつぐむ。


すると、冷蔵庫の音がやけに耳についた。


この部屋、こんなに静かだったっけ………。



―――カチャ

突然、玄関から音が聞こえてきた。


私はぴくりと肩を震わせて、弾かれたように立ち上がる。

それから早足で玄関へ向かう。


玄関のドアが外から開く前に、自分で勢いよく押し開けた。



「おっかえりー、トラ!」


「わっ」



満面の笑みで出迎えると、トラは驚いたように声をあげた。



「びっくりした………いきなり開けんなよな、心臓に悪い」


「あはは、ごめーん! 待ちきれなくてさ!」



私はにやにや笑いを浮かべて、肘でトラの脇腹をつつく。



「まったくさあ、何で黙ってたわけ?

婚約者がいるなんて、これっぽっちも聞いてませんでしたけど?

水くさいじゃん、私たちルームメイトなのにさ!

ま、いいけどねー。


それよりさ、ねえ、あの子、五十鈴さんだっけ? の話聞かせてよ。

どこでどうやって知り合ったの?

何て言ってプロポーズしたわけ?


こうなったら、ぜーんぶ洗いざらい吐かせてやるからね!

今夜は寝かさないぞー、なんてね」



私はトラの手を引っ張ってリビングに向かいながら、一気にそう言った。

一度も振り向かずに。

トラの顔を冷静に見る自信がなかったから。



< 90 / 190 >

この作品をシェア

pagetop