おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
*
大きく深呼吸をして、両手で頬をぺちりとたたき、口角をあげる。
「ただいまー!」
私は大声でそう言って、勢いよく玄関のドアを開けた。
「トラー! うさ様が帰ってきたよー」
リビングに向かって叫ぶと、トラが顔を出す。
「なんだ、早かったな。二次会、行かなかったのか?」
トラは私が持っていた大きな紙袋を奪い、首を傾げて訊ねてきた。
私は「んー」と頷き、靴を脱いで上着を脱ぐ。
「披露宴でけっこう飲んじゃったからねー、なんか疲れて帰って来ちゃった」
「そうか。おかえり、うさ様」
トラが目を細めて可笑しそうに微笑み、私の頭をくしゃりと撫でた。
「………うん」
今までだって何度もされたことのある仕草のはずなのに、今日はなぜだかどきりとしてしまう。
「にしても、この袋、重いな。何が入ってるんだ?」
トラが右手にもった紙袋を上げ下げして、眉をあげながら訊いてきた。
「あー、引き出物。バウムクーヘンとギフトカタログが入ってるみたい」
「なるほど、カタログな。最近けっこう多いよな。お、分厚い! だからこんなに重いのか」
「そうそう」
「これ持って帰ってくるの、大変だっただろ。おつかれさん」
トラはそう言って、また私の頭に手をのせる。
思わず肩がぴくりと反応してしまった。
トラが軽く目を見張って手を引っ込める。
それから、しばらく黙って私に視線を落としてきたけど、それきり何も言わなかった。