おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―







大きく深呼吸をして、両手で頬をぺちりとたたき、口角をあげる。


「ただいまー!」


私は大声でそう言って、勢いよく玄関のドアを開けた。


「トラー! うさ様が帰ってきたよー」


リビングに向かって叫ぶと、トラが顔を出す。


「なんだ、早かったな。二次会、行かなかったのか?」


トラは私が持っていた大きな紙袋を奪い、首を傾げて訊ねてきた。

私は「んー」と頷き、靴を脱いで上着を脱ぐ。


「披露宴でけっこう飲んじゃったからねー、なんか疲れて帰って来ちゃった」

「そうか。おかえり、うさ様」


トラが目を細めて可笑しそうに微笑み、私の頭をくしゃりと撫でた。


「………うん」


今までだって何度もされたことのある仕草のはずなのに、今日はなぜだかどきりとしてしまう。


「にしても、この袋、重いな。何が入ってるんだ?」


トラが右手にもった紙袋を上げ下げして、眉をあげながら訊いてきた。


「あー、引き出物。バウムクーヘンとギフトカタログが入ってるみたい」

「なるほど、カタログな。最近けっこう多いよな。お、分厚い! だからこんなに重いのか」

「そうそう」

「これ持って帰ってくるの、大変だっただろ。おつかれさん」


トラはそう言って、また私の頭に手をのせる。

思わず肩がぴくりと反応してしまった。


トラが軽く目を見張って手を引っ込める。

それから、しばらく黙って私に視線を落としてきたけど、それきり何も言わなかった。




< 95 / 190 >

この作品をシェア

pagetop