クールな王子に捧げる不器用な恋【番外編追加】
「朝比奈先輩、もう大丈夫です。今日はホテルに泊まりますから。いろいろとご迷惑……‼」

私が精一杯作り笑いをしてみせるが、朝比奈先輩は私の言葉を最後まで聞かずに怖い目で睨んだ。

「ストップ。この状況で『大丈夫』なんて言うな。本当は泣きたいくせに」

朝比奈先輩が叱るように言って、私の額をデコピンする。

「痛い……」

デコピン自体はそんなに痛くなかった。

でも、今の状況が悲しくて堰を切ったように涙が溢れる。私は子供のように声を上げて泣いた。

「うちに帰るぞ、ひよこ。これは、上司命令だ」

朝比奈先輩がそっと私の肩を抱くと、私は抵抗することもなく彼の胸の中で泣きじゃくる。

『命令だ』って言っても、彼の声はこの上なく優しかった。
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