愛の胡蝶蘭<短編>
和「蘭、」


和とは、同じ大学に来た。


と言うより、同じ大学に和も合格していた、という方が正しいだろうか。


『はいはーい。』


地元からは出て、一人暮らし中。


すぐ近くのアパートに、和も住んでいる。


周りからは、付き合っていると思われることも少なくはない。


否定は、もうしない。


あまりにも多くて、面倒くさいから。


和「今日、家いる?」


『んー……、あ、いるいる。
ご飯食べに来る?』


和「行きます。」


周りから聞けば、それは゛恋人゛のようだ、と。


違うのだ、これが゛普通゛で。


雄を失ってから、不安定になっていた私の元を去らなかったのは、彼だけで。


他の友達は、あまりにも可哀想だと言うような視線を向け、突然泣き出す私についていけなくなった。


それが、普通なのだと思う。


どうしたらいいのか分からなくなるのが、当たり前なのだと思う。


自分の近くから、大切な人が突然いなくなる気持ちを理解できなくていいのだ。


そんなの、知らなくて良い気持ちなのだ。



『何がいいの?』


和「……ハンバーグ。」


『ふはっ、いつもそうじゃん。』


和が、もし、いなかったら。


私は、本当に独りになっていただろう。


こうやって、笑えるようになるのに、とれだけの時間がかかったのか。


和「蘭ぐらいしか作ってくれませんからね。」


『しょうがないなぁ~。』


この何気ない会話をただただ続けてくれたから、今、こうしているのだ。


゛蘭、オムライス作って!゛

『……っ、』


ふと思い出すのは、もう慣れっこだ。


『じゃあ和、私もう授業ないから帰るから。好きなときに来てねー。』


和に気付かれないように、私は、笑う。


笑わなきゃ、和は、とても優しい人だから。


和ももう、十分苦しんだんだから。


雅がいなくなったこと、
不安定な私を見続けたこと、
彼一人に背負わせるのはあまりにも酷なことで。


『さ、ハンバーグ作ろ。』


今はただ、1日1日、笑って生きていくしかできない。


笑って、和を安心させるんだ。


もう、大丈夫だと。
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