ヒロインになれない!
「じゃ、遠澤さんは、花火大会の時にはじめて私を知ったんですね?和也先輩、明らかに慌てて怪しかったですもんね。不安にならはったんじゃないですか?」

却ってごめんなさいね、と、付け足してみた。

でも遠澤さんは、悲しい顔で言った。

「いいえ。和也が無理してたんだって、やっとわかりました。あれからずっと、和也は苦しんでます。本当はあなたが好きなのに。今も好きなのに。私は、最初からあなたの身代わりだったのに……。」

そんなこと言われても……。
私は途方に暮れた。

「和也とやり直してください。」

遠澤さんが私の手をとって、そう懇願した。
私は苦笑して、その手を彼女の膝に戻した。

「お話はよくわかりました。でも、遠澤さんは勘違いしてます。和也先輩は、私よりあなたとお子さんを選んだんですよ。花火大会の時かて、私からあなたを守ろうと必死でした。」

こんなこと言わせるなよ、と、また少し苛ついてくる。

「遠澤さんは和也先輩をよくご存じですよね?もし本当に私とやり直したいと思ってるなら、和也先輩は迷わず行動してはりますわ。」
……つまりそういうことだ。
「和也先輩は、遠澤さんに冷たい?逢いに来ない?」

ついタメ口になったけど、遠澤さんは首を横に振った。
私は、無理矢理笑って見せた。

「ほら。ほんまに和也先輩が私に気があるなら、遠澤さんに対する態度かて変わるんちゃいます?先輩、そんな器用な人とちゃうでしょ?心を強くもってください。疑心暗鬼ですよ?泣くのかて、胎教に悪いんちゃいますか?どうか、お子さんのために強くなってください。先輩を信じて。」

遠澤さんはまだ肩を震わせてけど、ティッシュで涙を拭い始めた。
素直な可愛い人やん。
大丈夫ちゃう?
私は立ち上がった。

「帰りますわ。和也先輩と、お幸せに。かわいい赤ちゃん、産んでくださいね。」
「あ……あの……」
既に玄関で靴を履いている私の腕を遠澤さんが掴んだ。

「あの!ごめんなさい。ありがとう。……ごめんなさい。」
そう言って、彼女は深々と頭を下げた。

そんな謝られても……とも思ったけど、それで遠澤さんの気が済むならいいか。
私は、ドアノブに手をかけながら言った。

「こちらこそ、ありがとう。私、和也先輩を好きになったことを後悔しました。でも、お話をうかがって和也先輩の潔さをかっこいいと思いました。次にどこかでお会いしたら、せめて普通にご挨拶ぐらいしましょうね。」

遠澤さんは、泣きそうな顔で微笑んだ。
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