ヒロインになれない!
ピカレスクでいこう
水の中にいる……。
ゆらゆら、体が勝手に揺れている……。
音が、やたらくもって聞こえにくい……。
鉛のように重たい……。

最初に取り戻したのは、味覚だった。
口の中に充満する血の味に、私は噎(む)せた。
左耳が、ぼーっと……おかしい。
やたら頭の中に、ガサガサとくもった音が響く。
次第に、右耳から入る音が、声に、そして言葉にと変換され始めた。
ああ、そうだ。
私、犯されてるんだ。

……視界がはっきりしてきた。
少し離れたところに、さっき脅されたスタンガンが放置されていた。
届かない……。
手を伸ばそうとするけれど、血が巡ってないのか、鉛のように重くて痛い。
……あ、でも……手、縛られてない。
ほどけたのか、ほどかれたのか、私の手は自由を取り戻しているようだ。
こっそりと、指先を動かし感触を確かめる。
動く。

私は無理矢理の性行為から逃れようともがく……ふりをして、じりじりとスタンガンに近づいた。
体勢を崩して、スタンガンの上に倒れる。
……取った!

後のことは、あまり思い出したくない。
無我夢中で最大出力のスタンガンを押し付けて、倒れた男達の男性性器を徹底的に踏みにじった。
男達が白目をむいても、泡を吹いても、私は一方的な復讐を止められなかった。

絶対許さない。
死んでしまえ!
お前なんか!
お前らなんか!
死ねっ!!!

……静かになった部屋で、私は自分のブラウスを探して、着た。
ボタンが半分飛んでしまい、皺くちゃだったけど、着られた。
ブラは……血と唾液で真っ赤なので諦めたが、ここに残すわけにもいかない。
適当な袋も見当たらなかったので、部屋に干してあったスポーツタオルでぐるぐる巻いてから、自分のカバンに入れた。

カバンの中には、携帯も財布もある。
……本当に、女を犯すことだけが目的なんだ。
しかも間違いなく、常習犯。
最低。

私は重たい体を引きずるように、とにかくこの狂った建物から逃げ出した。
すぐ前のマンションに、遠澤さんに助けを求めることも考えたが……和也先輩に知られたくなかった。
既に外は暗かった。
2軍が帰ってくるって、言ってたっけ……。
早くここから、逃げなきゃ。
足を伝って、液体が落ちてくる。
それが何なのか確かめることが怖くて、私は前を睨みつけて歩いた。
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