ヒロインになれない!
私は、すっぽり恭兄さまに抱きかかえられた。

わーっ!

ジタバタしようとして、恭兄さまの寝息に気づく。

……寝てはる。

無意識に引き寄せられた?
うれしい。

この夜、私はかねてからの念願通り恭兄さまの腕の中で眠ることができた。
いつもお行儀のいい恭兄さまは、私を腕に抱いていても、やはりそのまま微動だにせず……私は途中からけっこう窮屈に感じた。

寝入りばなだけ抱きしめてもらって、しばらくしたら離れて眠る、とかダメかしら?



翌朝。
……恭兄さまがガバッと起きた気配で私も目覚める。
今日は土曜日だから、急いで起きる必要もないんだけど。

「……おはようございますぅ。」
寝ぼけ眼(まなこ)でそう言うと、恭兄さまはお布団から出ながら

「おはよう。誰か来たみたい。宅配かな?由未ちゃん、まだ寝てていいよ。」
と、言い置いて寝室を出られた。

私は、安心して、再び目を閉じた。

……。

話し声が聞こえる……気がする。

この声は、えーと、お兄ちゃん?

え?
何で?

私は慌てて起きた。

服……着替え……ない!やばい!


このお家は、玄関ポーチに面したところに恭兄さまの書斎があり、同じ棟に応接室と私の部屋がある。
そして、この恭兄さまの居室と寝室は中庭を挟んで対面の母屋。

つまり私が自分の着替えを取りに自室に戻るには、どうしても、どこからも見晴らしのいい中庭に面した廊下を玄関のほうへ移動しなければいけなくて……兄が応接室か囲炉裏の部屋か、お座敷か、どこに通されたとしても、絶対気づかれる!

どうしよう。
あ、そうだ。
とりあえず、お布団を片付けてしまおう!

そう思って、私はお布団を掛け布団ごと簀巻きのように丸めて、持ち上げた。
……たぶん生まれて初めてお布団を持った私は、思った以上に大きく嵩張り重たいことに驚き、お布団を持ったまま、倒れてしまった。

「きゃぁっ!」
しまった!
今更、口を押さえても間に合うはずもなく、廊下から2人分の足音が近づいてきた。

「由未ちゃん!?」
「由未!」
2人ほぼ同時に私を呼ぶ声とともに、襖(ふすま)を開けられる。

……穴があったら入りたい。

私は恭兄さまのお布団の上に、自分のお布団の簀巻きを抱えた状態で仰向けに倒れていた。

恥ずかしすぎる……。




「……元気そうで安心したよ。」
兄は、盛大に笑った後、そう言った。

恭兄さまに助け起こされた私は、そのまま恭兄さまの後ろに隠れて、パジャマや髪を押さえつけるように整えた。
< 138 / 182 >

この作品をシェア

pagetop