ヒロインになれない!
「義人くん。由未ちゃんの受験が終わったら、京都にご挨拶に伺おうと思ってる。来年結婚するつもりだ。」
恭兄さまがきっぱりそう言うと、兄はあたまを掻いた。

「えーと、俺、別に、『妹に手を出したから責任取れ!』なんて言いませんよ?それに……見たところ、2人、まだみたいやし。そない気負わんでも……」
なぜわかる!?

けれど、恭兄さまは首を振った。
「いや、ばつの悪いところを見せてしまったからじゃなくて、もう気持ちは固まってるから。本来なら入籍するまでけじめをつけるべきなのに、僕が、なるべくずっとそばにいたくて由未ちゃんに恥をかかせてしまった。ごめんね。」

恭兄さまはそう言いながら私のほうを見て、兄にわからないように目くばせした。
言葉の端々に私を守ろうとする気概を感じて、私はうれしかった。
「着替えてくる!」
にやけた顔を見せたくなくて、私は走って自室へと逃げ込んだ。


着替えを済ませて母屋に戻ると、2人は囲炉裏端で話していた。
「で、お兄ちゃん、何しにきたん?」

そう聞くと、兄は肩をすくめた。
「東京まで来た理由は、歌劇の初日観劇。でも、ここに来たのは、昨日由未が電話に出なかったから。」

「あ。ごめん。忘れてた。」
兄は淋しい顔になった。

「ほらな。兄妹なんてこんなもんや。まあ、由未がベターハーフと幸せならいいねんけどな。」
ベターハーフ!
恭兄さまと私は、顔を見合わせて微笑みあった。

「正月は、帰って来るか?」
帰り際に兄がそう聞いたけれど、私は首を振った。

「受験生やし、やめとく。」
……本音は、今京都に帰ったら、また恭兄さまと別々の家に入ることになるから。

「わかった。おせち料理は届けるから。恭匡(やすまさ)さん、由未をよろしくお願いします。2人のこと、両親に話してもいいですよね?……天花寺(てんげいじ)家に嫁ぐとなると、色々準備もありますので。」

恭兄さまは神妙に頷いた。
うちの父に対していろんな葛藤を抱いているらしい恭兄さまの心中をお察しすると申し訳ない気もする。

一旦、玄関戸に手をかけてから、兄が振り返った。
「あ、そうだ。うちに養女を1人引き取るから。」

へ?
「何で?養女?……お父さんの隠し子じゃなくて?」

「由未ちゃん。」
恭兄さまがやんわり窘める。

兄は、ちょっと笑った。
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