ヒロインになれない!
「ほな、着替えてくる~。」

そう言って、自室に向かっていると、玄関チャイムが鳴った。
誰か、来た!

「はあ~い。」

終わったと思った私は、宅配か何かかと、気軽に玄関戸を開けた。

「あ、由未さん!ダメ!私が……」

後ろから、りかさんが私を窘めながら走ってきたけど、間に合わなかった。

「……まあ……」

玄関に立つご夫人が、眉をひそめる。

「はしたない。」

夫人の後ろから、聞き覚えのある辛辣な声。

「……ご、ご無沙汰しております……おばさま……百合子さま……」

ものすごくばつが悪いけれど、ご挨拶しないわけにはいかない。
親戚の中でも、たぶん現在一番恭兄さまと血が濃いと思われる2人がわざわざ京都から来てくれたのだ。

「由未さん、恭匡さまにお伝えください。」

後を引き取ってりかさんが、お二人を迎え入れてくださった。
私は、できるだけ背筋を伸ばし。堂々と美しく廊下を進み、恭兄さまのいるお座敷へと入った。

「遅刻のお客様、どなた?」

そう尋ねた恭兄さまに、泣きべそを見せて、謝る。

「ごめん……一番失態見せたらあかん人らやったのに、玄関に出てしもた……はしたないって言われてしもた……」

自分が情けない。
恭兄さまは、私の涙を見て、慌てて立ち上がると抱きしめてくれたけれど、

「落ち着くまで、控えてなさい。」

と言って、隣室に私を入れると、襖を閉めた!
……隔離されてしまった……
気を抜いた自分が悪いのだけれど、私はものすごく惨めだった。

襖越しに、おばさまと百合子姫と恭兄さまの会話に耳をそばだてた。

「本当に、竹原のお嬢さんとご婚約なさるのね。恭匡(やすまさ)さんの粘り勝ちですわね。」

おばさまのため息まじりの声から、私は、やはり親族から反対されていたことを察した。
恭兄さま、何も言わないけど……そりゃ、そうよねえ。

「祝福してください。彼女のことは、父も気に入ってくれてました。」
「あなたの執着はたいしたものですわ。今更もう反対いたしませんけどね。彼女に……由未さんでしたわね、天花寺家にふさわしいマナーを身に付けていただきませんと。」

……たぶん、りかさんは、したり顔で大きく頷いていることだろう。

「受験勉強が大変だったんでしょ。でも由未さんはがんばり屋さんですし、お式までにはガサツも治さはるんでしょ。」

百合子姫、やっぱりイケズ。
でも、以前のような敵意や悪意は感じなかった。
普通に、京都人のイケズなレベル。

……てか、多少京言葉を話さはるようになってはるんや。
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