ヒロインになれない!
「百合子はそのまま進学するんだよね?学部はどこへ?」
「経済学部ですわ。」

恭兄さまと一緒。
そして、兄と一緒。
百合子姫は、とっくに兄と切れてる……んだよねえ?

「そう。早いうちに資格をいろいろ取るといいよ。百合子が卒業後にどこかで働くとは思わないけど、嫁ぎ先で役に立つこともあろうから。」

……。

沈黙が広がる。

恭兄さまに悪意はないのかもしれないけど、京都人が聞けば、かな〜りイケズです!恭兄さま!

まだ、高校卒業したばっかりだよ、百合子姫。
嫁ぎ先とか、あかんて。
しかも、お姫様に対して、「役に立つ」って。
そんなこと、おばさまも百合子姫も、これっぽっちも思ってはらへんから!

私は、襖1枚隔てて1人でハラハラしていた。

「そういえば、竹原の家が迎えたというお嬢さんには、もうお会いになりましたか?」

おばさまが、話題を変えた。

「ええ、先日、京都で。」
「……どのようなお嬢さんでした?」
「珍しいですね。おばさまが興味を抱かれるとは。そうですね、品のいい聡い少女でしたよ。」

うん、そうね。
兄が連れてきた、希和子ちゃんは、控えめだけど芯の強そうな、媚びない少女だった。
整った顔立ちなのに、愛嬌も可愛げも笑顔ないので、確かに放っておけない感じ。
母も兄も、希和子ちゃんをなんとか快活に笑わそうと試行錯誤しているようだった。

「そうですか。」

なんだろう。
おばさまの相槌に、何らかの含みを感じた。
ああ、じれったいな。

「結納の品はこれでよろしかったですか?僕の母の時と同じように整えたのですが。」
「……あなたのお父さまは、ダイヤではなく、お母さまの誕生石と真珠の指輪を贈ってましたわ。」
「ああ、そうでしたね。真珠も一通り必要ですね。晩餐会までに揃えます。ありがとうございます。」

いや、もう、充分ですから。
恭兄さまも、うちの実家も、やたらに晩餐会・園遊会・お茶会・パーティーを意識した装飾品を買い揃えてくださろうとしているのだが、私のキャラにも年齢にも合ってない気がしてたまらない。

「由未さんがうらやましいわ。」

へ?

百合子姫のつぶやきに、私は耳を疑った。
鼓膜、破れてへんよね?
虫のように嫌われてるとばかり思っていた私はちょっと信じられなかった。

「百合子は、特定の人はいないのかい?もてるだろ。」
「……恋愛は難しいわ。どなたかいいかたを紹介してくださいませんか?」

百合子姫の言葉には、何の気負いもなかった。
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