ヒロインになれない!
「僕の友人でいいの?優秀でも変な人ばかりだよ?」

……なるほど、類は友を呼ぶ、わけですね。

「真摯なかたなら。」

百合子姫?
何だか、イメージが違う?
ううん、百合子姫だけじゃない。
おばさまも、さっき、私のことを「今更反対しない」と仰ってたっけ。
それに何だか声も昔より穏やかな気がする。

「由未さんにもご挨拶したいわ。りかさん、お呼びしてくださる?」

おばさまの声に、私は慌てて襖からはなれ、忍び足で廊下に出た。
りかさんの手招きで、さも、母屋の奥から出てきたように、廊下からお座敷へ続く障子を開けた。
廊下に座ったまま、頭を下げる。

「先ほどは失礼いたしました。ご無沙汰いたしております。本日は、遠くから、ありがとうございます。」

恭兄さまが満足そうに頷いてる……これでよかったのね。
おばさまも、柔らかく微笑んでくださった!
……こんな優しいお顔、はじめて見たかも。

「恭匡さんからお話はうかがいました。わがままな甥によくしていただいているそうですね。ありがとうございます。これからも、天花寺の家をよろしくお願いしますね。」

思ってもみなかった温かい言葉に、私は心底驚いて……ホロホロと泣いてしまった。

「あらあら……」
「す、すみません。今日、たくさんのかたにお会いしましたが、はじめて優しい言葉をかけていただいて……うれしくて……」

ずっと値踏みされていたような気がしていた。
針のむしろだった。
それが、まさか、このおばさまに、こんな風に言ってもらえるとは思ってもみなかった。
……10年前は一顧だにしてもらえなかったのに。

「失礼します。」

恭兄さまが、おばさまに断って、私のそばに来てハンカチを手渡した。

「……泣いてないで、ちゃんと挨拶なさい。」

てっきり涙を拭きに来てくれはったんやと思ったのに……恭兄さまは、私にそう言った。
恭兄さまの口調の厳しさにまた新たな涙を浮かべながら、私はおばさまにご挨拶した。

「本当に、天花寺家のことどころか、右も左もわかりません若輩者ですのに、頼るべき天花寺のお父さまもお母さまも鬼籍に入られていてとても心細く思っておりました。今後はおばさまに天花寺家のことをいろいろと教えていただけるとうれしゅうございます。どうか、よろしくお願いします。」

……これでいいですか?恭兄さま?
頭を下げながら、ちろりと恭兄さまを見ると、うんうん小さく頷いてらした。

……おばさまに対する言葉に嘘偽りはなかったけれど……恭兄さまには不信感を覚えた。
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