ヒロインになれない!
「え……でも……」
見守ってるって約束したのに?
兄に引っ張られて、図書館を出る。

「大丈夫かなあ……」
心配でついそう言うと、兄は肩をすくめた。
「目的は達成したやん。」
「達成?」
「……見えてへんかった?一条氏、名刺らしきものの裏にたぶん自分の番号を書き込んでから知織ちゃんに渡してたで。知織ちゃんも紙に書いてたから、あっさり連絡先交換できたんちゃうか?めでたしめでたし、や。」

私は、兄の言葉に、口をぽかーんと開けてしまった。
……知織ちゃん……すごい。

「これからのことは、ぼちぼちでええやろ。何と言うても、知織ちゃんは、まだ中2やからな。」
「……もう中2やもん。」

私の口調がちょっと拗ねモードだったことに、兄が眉をひそめる。
「もしかして、拗ねてる?」

私は、気恥ずかしくなって口をつぐんだ。

同い年で、百合子姫は兄と「体の関係」があった。
同い年で、知織ちゃんは、芸能人との恋を始めようとしている。
私だけ、何もない……。

兄は、私の頭をくしゃっと撫でた。
「ろくでもない男と適当な恋愛ごっこするよりは、何もないほうがずっといいと思うで。」

「……ろくでもない、って、お兄ちゃんみたいな、『たらし』?」
私の憎まれ口に、兄は、ふんっと鼻で笑った。

「まあ、由未は俺を見て育ったから、大変やわなあ。幼稚園でも小学校でも塾でも、普通に女子に人気のある男子はおったやろ?でも、全然いいと思えんかったんちゃうか?」

私はむうっ~と、唸ってふくれる。
口惜しいけどその通りだ。
兄より素敵な子なんて、そうそういない。

「俺的には、セルジュか彩乃が由未の相手なら安心ねんけどなあ。あとは、う~ん……あぁ、恭匡(やすまさ)さん?」

「みんな私なんか眼中にないやん!……てか、セルジュも彩乃さんも私より綺麗やし、恭(きょう)兄さまは身分違いでしょ。もう何年もお会いしてへんし、彼女いてはるんちゃう?」

兄は、苦笑した。
「そうか?……まあ、お前自身がそうやって萎縮してる限り、可能性は狭(せば)まるわ。もっと自信持ったらええのに。」

自信……。
確かに私には、足りないかもしれない。
しゅんとした私を元気づけようとしたのだろう、兄はこのくそ暑いのに、私の肩を抱き寄せて耳元で囁いた。

「俺がお前を、ええ女にしてやろか?避妊したら近親相姦でも問題ないやろ。」

……問題ありありやっちゅうねん。

「やらしいっ!」

私は兄の手から逃れて、叫んだ。

兄は、クックックッと、低く笑っていた。
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