ヒロインになれない!
神戸か。

この2年、兄や彩乃さんと一緒にセルジュのうちにお泊りすることもあり、その際神戸にも何度も行っているので、私の中に明るい夢が広がる。

「兵庫県内で毎年ベスト4止まりだったのに、今年はがんばったのね。」
背後から、保健室の先生が囁いた。

「……そ、そうなんですか?」
「ええ。この子?さっきの子。1年か……じゃ、スポーツ推薦で入学したんでしょうね。」

公立高校でもスポーツ枠の推薦入学ってあるんや……。
高校受験と無関係な私は、へえ~……と、声に出して感心した。

「お仕事、終わったようね?じゃ、見学に行こうか。」
保健室の先生が笑顔で私を誘う。

「え!?」
「15時出発らしいから、あと1時間ちょっと。せっかくだから見に行きましょ。」
「……はいっ!」

保健室の先生に連れられて、私はサッカーの競技会場に向かった。
メインスタジアムでは2つのチームが半面ずつに分かれて練習しているようだった。
ユニフォームの色が違う。

「あっちかな?」
先生は、スタンド裏からサブ会場を見下ろした。
広い敷地に2面の競技スペースが取ってあり、いくつもの場所で、色んなユニフォームやジャージの集団がいた。

「いたいた。」
いつの間にか小さな双眼鏡を覗いていた保健室の先生が、そう言って私に指差しながら、双眼鏡を貸してくれた。

青いジャージと青いユニフォームの中に、確かに、いた!
佐々木和也くん……さん……くん。

「こうして見ると、1年生って感じね。体が華奢に見えるわ。さっきは、ごっつく感じたけど。」
……確かに、他の選手は、腕も足もさらに太い。

双眼鏡で見る和也くんは、掃溜めに鶴、と言っては失礼だろうか。
1人、際立ってイケメンだった。

「彼、もてそうね。」
保健室の先生が笑いを含んだ声でそう言った。

何か、おもしろがられてる気がする……・。
「楽しそうですね……。」
私は双眼鏡から目を離せないまま、保健室の先生にそう言ってみた。

すると彼女は、ふふっと笑ってこう言った。
「そりゃ、いくつになっても女子はコイバナが好きなもんでしょ。」

「コイバナって……」
否定しようとした矢先、双眼鏡の中で和也くんがボールを蹴った。
全身がしなるその躍動感に、私の胸がまた騒ぎ出す。
……はい、否定できません……恋みたいです。

15時に、事務所に戻る……あれ?
パンとポカリがない!
……何と、事務所で煙草を吸いながらしゃべってた偉そうな役員に食べられてしまったらしい。

ショックすぎる。
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