ヒロインになれない!
「力は入れなくていいよ。優しく、くるくるしてたら摺れるから。逆に力を入れると墨が荒くなるんだ。」
そう言って、恭兄さまが、また、墨を持つ私の右手を持って優しく動かしてくれた。
こんなんでいいんや……。
「いい香り~。」
墨の香りに鼻をくんくんさせると、恭兄さまがうなずいた。
「うん。僕もこの香りは好きだな。墨汁にはない、贅沢な楽しみだね。」
しばらくして恭兄さまが私の手を放す。
「はい。もういいよ。書いてみようか。……じゃあ、由未ちゃんのお名前。自由の由と未来の未だったっけ?」
そう言いながら、恭兄さまは新しい半紙を置いて、私に筆を持たせると一緒に「竹原由未」と書いてくれた。
自分の名前が、急にとても美しい立派な名前に変化した気がした。
「すごい!!!」
私はうれしくて、つい、半紙の上に、がばっと伏せた。
「え!?どうしたの!?どこか痛いの!?」
恭兄さまが驚いて、私の背中に手を当てて、顔を覗きこむ。
「……ううん。痛くない……です。」
「あ、よかった。……墨がまだ乾いてないから、服が汚れるよ?」
恭兄さまに言われて、私は慌てて起き上がる。
天花寺(てんげいじ)さまに行くから、と、はじめて袖を通した白いワンピースに、いくつもの墨がついてしまった。
「あ……」
絶句する恭兄さまと私。
「大変だ!ちょっと待ってて!」
そう言って、恭兄さまはバタバタと走って行った。
一人残された私は、服のことより、さっき名前を一緒に書いてもらった半紙をうっとり見つめていた。
すぐに恭兄さまが帰ってきた。
「これに着替えて!早く!」
そう言って、ピンクのワンピースを私に押しつけて、恭兄さまは隣の部屋へ入り襖を閉めた。
「着替え終わったら呼んでね!」
言われるがままに、着ていた白いワンピースを脱いで、着替える。
……お兄ちゃんなら、その場で脱がせただろうけど、恭兄さまは私を女の子として扱ってくれてる。
くすぐったいような気持ちで、ピンクのワンピースを着させてもらった。
かわいい……これって、百合子姫の?
「着替えました。」
そう言うと、恭兄さまがご飯茶碗と台所洗剤を持って入ってきた。
「貸して。」
そう言って、ご飯茶碗の中をねりねりして、台所洗剤を洋服に垂らし、練っていたものをべったりとなすりつけた。
「ご飯粒と洗濯洗剤だよ。」
そう言いながら、塗りたくると、タオルにあてて、裏面からスプーンでトントンと叩いた。
恭兄さまと頭を付き合わせるように、墨の染み抜きの様子を見つめていると、
「失礼します。」
と、言いながら、父が入ってきた。
そう言って、恭兄さまが、また、墨を持つ私の右手を持って優しく動かしてくれた。
こんなんでいいんや……。
「いい香り~。」
墨の香りに鼻をくんくんさせると、恭兄さまがうなずいた。
「うん。僕もこの香りは好きだな。墨汁にはない、贅沢な楽しみだね。」
しばらくして恭兄さまが私の手を放す。
「はい。もういいよ。書いてみようか。……じゃあ、由未ちゃんのお名前。自由の由と未来の未だったっけ?」
そう言いながら、恭兄さまは新しい半紙を置いて、私に筆を持たせると一緒に「竹原由未」と書いてくれた。
自分の名前が、急にとても美しい立派な名前に変化した気がした。
「すごい!!!」
私はうれしくて、つい、半紙の上に、がばっと伏せた。
「え!?どうしたの!?どこか痛いの!?」
恭兄さまが驚いて、私の背中に手を当てて、顔を覗きこむ。
「……ううん。痛くない……です。」
「あ、よかった。……墨がまだ乾いてないから、服が汚れるよ?」
恭兄さまに言われて、私は慌てて起き上がる。
天花寺(てんげいじ)さまに行くから、と、はじめて袖を通した白いワンピースに、いくつもの墨がついてしまった。
「あ……」
絶句する恭兄さまと私。
「大変だ!ちょっと待ってて!」
そう言って、恭兄さまはバタバタと走って行った。
一人残された私は、服のことより、さっき名前を一緒に書いてもらった半紙をうっとり見つめていた。
すぐに恭兄さまが帰ってきた。
「これに着替えて!早く!」
そう言って、ピンクのワンピースを私に押しつけて、恭兄さまは隣の部屋へ入り襖を閉めた。
「着替え終わったら呼んでね!」
言われるがままに、着ていた白いワンピースを脱いで、着替える。
……お兄ちゃんなら、その場で脱がせただろうけど、恭兄さまは私を女の子として扱ってくれてる。
くすぐったいような気持ちで、ピンクのワンピースを着させてもらった。
かわいい……これって、百合子姫の?
「着替えました。」
そう言うと、恭兄さまがご飯茶碗と台所洗剤を持って入ってきた。
「貸して。」
そう言って、ご飯茶碗の中をねりねりして、台所洗剤を洋服に垂らし、練っていたものをべったりとなすりつけた。
「ご飯粒と洗濯洗剤だよ。」
そう言いながら、塗りたくると、タオルにあてて、裏面からスプーンでトントンと叩いた。
恭兄さまと頭を付き合わせるように、墨の染み抜きの様子を見つめていると、
「失礼します。」
と、言いながら、父が入ってきた。